2人格障害の原因・リスク要因|遺伝・環境・心理的背景を解説
「人格障害(パーソナリティ障害)」という言葉を聞くと、まず思い浮かぶのは「性格に問題がある」「育ちのせい」というイメージかもしれません。しかし、人格障害の原因は単純ではなく、遺伝的要因・環境要因・心理的背景など、複数の要素が複雑に絡み合っていると考えられています。
本記事では、「原因」「リスク要因」という視点から、遺伝・環境・心理的背景の3つを中心にわかりやすく解説します。「なぜ人格障害は起こるのか?」と疑問をお持ちの方はぜひ参考にしてください。
目次
- はじめに:なぜ原因を知ることが大切か
- 遺伝的要因
- 環境要因
- 心理的背景
- 専門用語・キーワード解説
- まとめ:リスク要因を知る意義
1. はじめに:なぜ原因を知ることが大切か
人格障害の原因を知ることには、次のような大きなメリットがあります。
- 自分や身近な人を責めなくなる
「あの人はわがままだから…」と単純化するのではなく、複数の要因を理解することで、より正確に状況を把握できます。 - 適切な治療法やサポートを選びやすくなる
「遺伝的要素が強いのか、幼少期のトラウマが影響しているのか」などを知ると、カウンセリングや薬物療法など、適切な対処法を見つけやすくなります。 - 予防・再発防止策に活かせる
リスク要因を把握することで、周囲のサポートの仕方や早期介入がしやすくなります。
例え話:
車が動かなくなった時、「ガソリンが切れたのか、エンジンが壊れたのか、タイヤがパンクしているのか」と原因を特定しなければ、どう直せば良いか分かりませんよね。人格障害のケアや治療も同じで、原因を知ることでより適切な“修理”方法を探せるのです。
2. 遺伝的要因
● 遺伝はどれくらい関係する?
「人格は生まれつきなのか?」という疑問はよく聞かれます。科学的研究によると、人格障害には一定の遺伝的要素が関与しているとされます。たとえば、双子の研究では、一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも人格障害の一致率が高いといったデータが得られています。
ただし、遺伝が「すべての原因」ではありません。同じような遺伝的素質を持っていても、人格障害を発症しない人もたくさんいます。いわば“土台”のようなものを遺伝が提供しているだけで、その後の「環境や心理的影響」によって症状が出るかどうかが左右されることが多いのです。
例え話:
遺伝的要素は、「ピアノの才能を持って生まれてきた」ようなものです。潜在的に持っている素養(遺伝)があっても、実際に練習環境や指導者(環境)によって才能が開花するかどうかは変わってきます。人格障害の場合も同じで、遺伝だけで決まるわけではありません。
3. 環境要因
● 幼少期の家庭環境・育児スタイル
幼少期に受ける親の関わり方や育児スタイルが人格形成に大きな影響を与えることは、広く知られています。例えば、
- 過度な支配や厳格すぎるしつけ
- 無関心・ネグレクトなどの不適切な育児
- 両親の不和やDV環境
こうしたストレスフルな状況が長く続くと、子どもは自分や他者への不信感や極端な不安感を抱えやすくなり、それが人格障害の一因になる場合があります。
● トラウマ体験(虐待・いじめ など)
トラウマ(心的外傷)も人格障害のリスク要因として非常に大きいと指摘されています。例えば、子ども時代の身体的・性的・心理的虐待や学校での激しいいじめなど。これらの経験が繰り返されると、
- 「他人は信用できない」という思考
- 「自分は無価値だ」という強い自己否定感
などが根付いてしまうことがあり、人格障害の症状として出やすくなります。
例え話:
家庭環境やトラウマは、いわば「庭の土壌」のようなもの。元々どんな植物の種(遺伝)があっても、土が荒れていて栄養が不足していたり、害虫に侵され続けていれば、育つ過程で大きな問題が生じます。
4. 心理的背景
● 思春期~青年期の自己形成
人格は子どもの頃から徐々に出来上がりますが、思春期から青年期にかけて大きく変化していくのが一般的です。自分のアイデンティティ(「自分はどんな人間か」という感覚)が確立する時期に、
- 強い孤立感や疎外感
- 見捨てられ不安
- 承認欲求の過度な高まり
などが重なると、急激に人格障害的な症状が顕在化することがあります。
● スキーマ(思い込み・認知のクセ)
「スキーマ」というのは、心理学で使われる概念で、自分や世界に対して根強く持っている思い込みや認知パターンを指します。
- 「どうせ自分はダメな存在だ」
- 「誰も信用できない」
- 「完璧でないと認められない」
こうした思い込みが強固になると、対人関係や自己評価に歪みが生じやすく、人格障害の特徴として表れやすいのです。
例え話:
スキーマを「メガネ」に例えてみましょう。レンズが極端に曇っていたり偏光していたりすると、本当は晴れている景色も「どんよりした暗い世界」に見えてしまいます。スキーマが歪んでいると、客観的には問題ない出来事でも「自分は攻撃されている」と思い込んだり、「失敗だ」と感じやすくなります。
5. 専門用語・キーワード解説
- 遺伝的要因
- 親から受け継ぐ生物学的素質。脳の神経伝達物質のバランスや気質が含まれる。
- 例え話:「ピアノの才能」があっても、環境が整っていなければ活かされない。
- 環境要因
- 育った家庭環境や学校生活、社会的・文化的環境など。
- 例え話:「庭の土壌」が悪ければ、育つ過程で不都合が生じやすい。
- トラウマ
- 心に深い傷を負うような出来事(虐待、いじめ、事故など)。
- 例え話:「怪我を放置して治癒しないまま無理に動き続けている」ような状態。
- スキーマ(思い込み・認知のクセ)
- 自分や世界を捉える際の根強い思考パターン。
- 例え話:「レンズが曇ったメガネ」をかけているようなもの。
6. まとめ:リスク要因を知る意義
- 遺伝的要因 は人格障害の“土台”として影響するが、それだけで決まるわけではない。
- 環境要因(幼少期の家庭環境、トラウマ体験など)は人格形成に大きく影響し、否定的な経験が積み重なるとリスクが高まる。
- 心理的背景(思春期・青年期のアイデンティティ危機、スキーマの歪みなど)も症状を顕在化させるトリガーとなる。
● 正しい知識と適切なサポートが重要
「原因」「リスク要因」を理解すると、人格障害は「本人の性格の問題だけ」ではないことが明確になります。複合的な要素が絡み合っているため、
- 本人の意識改革(認知行動療法や心理カウンセリング)
- 家族や周囲の理解・支援
- 必要に応じた薬物療法
など、多方面からのアプローチが効果的です。
次に読んでほしい記事:
- 人格障害の治療法・支援(カウンセリング・薬物療法・自己対処法)(リンク例)
- 人格障害とは?定義・歴史・分類概要【初心者向けガイド】(リンク例)
もし自分や大切な人が、「生きづらさ」や「対人関係の問題」を強く抱えているなら、専門家に相談してみるのもひとつの選択です。適切な理解とサポートがあれば、状況は必ずしも悲観的ではありません。
参考文献
- DSM-5 (2013年) – American Psychiatric Association
- 「こころの健康 > こころの病気」 – 厚生労働省
- 日本精神神経学会 公式サイト
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、医学的な診断や治療行為を代替するものではありません。実際に心身の不調を感じる方や、周囲の問題に悩んでいる方は、医療機関や専門家にご相談ください。
まとめ: 人格障害の原因は「遺伝・環境・心理的背景」の三つ巴で成り立ち、どれか1つだけに注目しても全体像は見えにくいです。ただし、これらを知ることは「解決策を探る出発点」にもなります。しっかりした情報に基づいて、より良いサポートや治療方法を見つけていきましょう。
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心理士/統合失調症研究員/ユング心理学者 / 夢分析研究員 / 心理カウンセラー
◆日本ユング心理学研究所会員
◆日本カウンセリング学会会員
◆日本応用心理学研究所ゼミナール会員
◆中部カウンセラースクールジャスティス総合教育センター修了
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