フロイト以後の精神病論
米国では渡米してきたp・フェダーンやE・ジェイコブソンらが自我
心理学からの精神病論を展開し、それは次世代へ引き継がれた。英国で
はM・クラインが精神病理解に有益な新しい分析理論を築き、彼女の
後継者たちがそれを精神病治療に実践していった。
フロイトのおひざもとのウイーンでフェダーンは、精神分析的自我心
理学の立場から精神分裂病の分析治療に取り組み、その病理を考察し
た。精神分裂病では、自我の境界、すなわちこころの内と外、意識と無
意識、過去と現在、他者と自己を区別する境界が崩れてしまっており、
それが精神分裂病の自我障害(自我体験の障害:たとえば離人症状、さ
せられ体験、被影響体験)といわれるこの疾患にオリジナルな症状をも
たらす。その崩れた境界の修復の作業が、幻覚や妄想という陽性症状を
作り出すことになる。フェダーンは「自我境界の障害」を精神分裂病の
重要な要因と考えたのであった。
フェダーンは米国に渡ったが、精神分析的自我心理学の立場からはそ
の後、同様に渡米したH・ハルトマンが精神分裂病における「自律的自
我の障害」を指摘した。知覚したり考えたり判断したりする葛藤外自我
機能の障害が大きいとのことである。またジェイコブソンは、精神病で
の自己の対象との関係にも関心を向け、精神病では自己表象と対象表象
の混同と崩壊、すなわち自己表象と対象表象、さらには超自我が分化さ
れておらず融合しやすい見いだした。そうした精神病性のパーソ
ナリティでは、病的同一化、とくに投影性の同一化が防衛メカニズムと
して働くことにも注目した。これらのように彼らは、フロイトが描いた
精神病での自我の障害をさらにきめこまかく検討した。この自我心理学
からの精神病理解は、今日では、同一性の統合度・防衛メカニズムの種
類・現実検討能力の有無の三つの自我能力によって把握される「パーソ
ナリティー構造」という概念から精神病や精神病性パーソナリティー構造を
検索しているO・カンバーグに受け継がれている。
現代精神分析学 牛島定信 より抜粋いたしました