統合失調症とはなにか?何故思春期以降に発病するか
統合失調症やその他の疾患は多様な要因によって作られています。
発病し易さ、発病後の経過、予後などが、いずれも生物学的、心理学的、社会的要因が、統合失調症のそれぞれの病気に影響を与えています。
これらの影響のほとんどは環境によるものであり、遺伝や性別、シナプスの欠損など生来性の要因が
単独に作用しているケースはほとんどないといえます。
一般的には他の疾患同様、統合失調症においても、
発病し易さには性別学的要因が関わり、
心理学的要因がしばしば発病の引き金となります。
病気の経過と予後
環境要因という言葉を、生まれつきの遺伝学的素因以外の
全てを含むものとして用います。
環境要因というのは幅が広く、胎児が子宮にある時の身体的な条件から、
患者が将来直面するスティグマ(社会的烙印)や差別に至るまで人生の全ての局面に関与しています。
周知のごとく、社会文化的な影響を受けるといわれています。
統合失調症は正確な理解を得ておらず、しかも不治だと思われています。
統合失調症には、神秘的で、自分とは関係がなく、暴力的だというイメージがあります。
かつて恐怖の数世紀は統合失調症について歪んだ社会通念を広めました。
統合失調症は重篤な精神疾患です。
つまり感情、思考、判断、外界の認知などが混乱するため
人の能力が損なわれる病気です。
統合失調症の症状
陽性症状と陰性症状とに分けられます。
陽性症状というのは異常な体験や、
幻覚、妄想、非論理的で混乱した思考、不適切な行動等を指します。
陰性症状というのは、通常思考や感情、行動などが欠けているために、相手に対する思慮の乏しさ、意欲の低下、思考内容の貧困化、対人的な引きこもり等として現れます。
診断
二つの機能性精神疾患として、統合失調症と双極性障害(躁うつ病)があります。
この二つの疾患は簡単ではありません。
双極性障害では、精神症状が重い気分変動を伴って表れます。
時には気分が高揚して激しいそう状態を呈したり、別の時には身体と思考の両面にわたる緩慢さ、絶望感、罪悪感、自己評価の低さを示します。
統合失調症の経過
変動するものの、症状はもっと持続的であることが多く、周囲とそぐわない感情表現が見られ、時には自発性に欠けます。
非論理的な思考は統合失調症において際立っています。
幻聴は躁うつ病でも統合失調症においてもみられますが、統合失調症の場合には、患者の行動に口をはさんだり、対話性幻聴であったりすします。
妄想も上記二つの疾患にみられますが、統合失調症の場合には、自分で自分をコントロールできず
自分が外部からの力に動かされているという感覚が強いです。
或いは、
自分の考えが筒抜けになっているとか、妨害されているなどと感じます。
統合失調症は特徴を持つ者のタイプが異なります。
ある人は妄想を抱いているが、判断力に優れ、生活面で高い能力を発揮します。
他の人は奇妙な癖や外観を示し、体中がやられているという妄想に没頭し、もっぱら受け身的だったり引きこもっていたりします。
このように二つのタイプの違いが際立っています。
何をもって統合失調症といえるのか、何をもって統合失調症ではないと言い切れるのか、
米国では昔は統合失調症の診断を広くとる傾向がありましたが、1980年に出されたAPA(診断基準)によって
世界で最も狭い診断基準に変わりました。
統合失調症と躁うつ病が多くの共通の症状を有します。
この二つの病気を区別できないことは珍しくありません。
躁うつ病の人達は、正常に生活している時期にも躁病とうつ病のサインを呈していることが多いです。
しかし、古代ギリシャやローマ時代にも、現代においても認められる典型的な統合失調症の医学的記載を見ることができます。
また、幻覚や妄想の内容は文化によって異なるものの、
病気の現れ方は場所によって変わることはありません。
統合失調症は、一般の人も専門家も進行性で悪化の一途をたどり、悲惨な結末に至ると考えていますが、
統合失調症と診断された人のうち20~25%は完全に回復します。
この場合には、全ての精神的症状が消失し、病前の能力を回復します。
次の20%の人達は、いくつかの症状を残すものの十分に実り多い人生を送ることができます(WARNER,1994)。
途上国の回復率は良いです。
途上国においては
精神疾患をもつ多くの人が、地域でよりよく受け入れられ、特別視されることが少なく、
さらに多くの人々は自給自足の農業経済の中で仕事を得られるためだと思われます(WARNER,1994)。
さらに、統合失調症の経過には様々な差異が認められます。
数か月から数年の経過をたどり、
緩やかに発病し、中には、数時間ないし数か月に突発的に発病する場合もあります。
完全寛解までに数週間から数か月を要するものもあれば、症状が持続し変動する場合もあります。
数年も殆ど症状が変化しないものもあります。
晩年になれば、この病気は最終的に、完全な回復をみるか、あるいは軽度の障害を呈するか、または重篤な経過をつづけます。
統合失調症を持つ人が年齢を重ねるにつれて病状はより軽快します。
加えて、発病年齢が遅い程病気の予後はいいです。
女性は男性よりも通常は遅く発病し、その経過は男性よりも軽いです。
14歳以前の発病は稀ですが、重篤な経過をたどります。
40歳以後の発病も稀ですが、その場合は穏やかな経過を辿ります。
原因
器質的な欠陥や感染による因子は認められませんが、
発病のリスクを増大させる多くの要因があります。
中には遺伝子や産科合併症などが含まれます。
統合失調症にかかった人の親族の発病リスクは高いです。
この親族の中でも同じ遺伝子を持つものほど高くなります。
例えば、患者とその姪や伯母も叔母も母との関係では、人生上で発病するリスクは約2%もあります。
これは一般人口の2倍にのぼります。
さらに、患者とその同胞や親或いは子供との関係では発病率は約10%(6-13%)に跳ね上がります。
一卵性双生児の場合、一方が統合失調症に罹患していると、他方の発病リスクは50%近くに達します(GOTTESNAN,1991)。
しかし、50%であるという事実は、この病気の発病原因を遺伝子だけで説明できないということでもあります。
つまり遺伝子以外の強力な要因が作用しているものと考えられます。
妊婦と出産
陣痛遷延のような産科合併症を伴って産まれた人は、こうした合併症なしで産まれた人の2倍の発病リスクを持っています。
産科合併症の既往歴を調べると、患者のうち最大で40%の人達が産科合併症を伴って産まれています。
妊婦がウイルス性の疾患にかかると胎児の脳損傷のリスクは高いです。
統合失調症のより多くの患者が冬の終わりか春に生まれています。
それらの出産は、インフルエンザ、麻疹、水疱瘡などウイルス性疾患の流行の後になされていることが知られています。
母親のウイルス感染は統合失調症の発病リスクの増大に部分的にしか関与していないものと思われます(WARMER&DEGIROLAMA,1995)。
家族や養育態度が発病の原因ではありません。
誤った理解によって、数百万にのぼる統合失調症患者の家族たちは、不要な辱めを受け、罪悪感や汚名をこうむってきました。
統合失調症の患者の一部には、脳の器質的変化が認められています。
死後の脳組織の分析に依りますと、多くの構造的な異常が認められています。
新しい画像診断法に依ると、生きている間にも、脳に構造的かつ機能的な異常が認められています。
磁気共鳴映像法(MRI)に依ると、脳のいろんな部位のサイズの変化、特に側頭葉の脳室の拡大と、側頭葉組織の現象が見られ、
こうした脳の変化が大きい程、思考障害や幻聴が重くなるといいます(saddathほか、1990)。
ポジトロンCT(PET)は脳の画像診断だけでなく、生理学的な機能も評価できます。
PETを用いた研究によれば、側頭葉特に海馬の活動過剰が認められました。
海馬は、側頭葉の一部で見当識や短期記憶に関連しています(TAMMING他、1992)
脳波を用いた脳機能の電気生理学的な画像診断法に依ると、統合失調症患者の殆どの人々は
繰り返される外的刺激に過剰に反応し、不適切な情報の流入を食い止める能力が低下しているといいます(FREEDAM他、1997)。
不適切な情報の流入を食い止める役目を果たすします。
前頭葉を含む脳のそれらの部位の活動性がPET上で不活発であるというのは、こうした所見と一致します(FAMMINGA他1992)。
このような感覚遮断の障害と一致して、死後脳の研究に於いてある種の神経細胞つまり抑制系の介在神経に問題が見つかりました。(介在神経とは重要な神経細胞同士の間に神経回路を作る)。
抑制系の介在神経は重要な神経細胞の活動を低下させ、過剰な外的刺激の流入から重要な神経細胞を守り、環境からの過剰な感覚刺激から脳を守っています。
ところが統合失調症患者の脳に於いては、介在神経からの放出される化学物質或いは神経伝達物質(GABAが代表的)が減少していました(BENES他1991)
統合失調症に於いてはこうした介在神経の機能的な障害によって、神経伝達物質であるドーパミンを放出する脳細胞の変化がもたらされているものと思わます。
ドーパミンの役割は統合失調症研究者にとって長い間関心の的でした。
というのは、アンフェタミン(覚せい剤)のようなドーパミンの効果を増強する薬物が統合失調症に類似した精神疾患を作り出し、逆にドーパミンの効果を弱めたりブロックする薬物が精神疾患の治療に有効だったからです(MELTGLS&STAHL1976)。
ドーパミンは意識水準を高めるので、人がストレスや危機に直面したときに役に立ちます。
ところが患者にとっては、脳がすでに活動過剰になっている(刺激閾値の低下に依る)ので、そこにドーパミンンの作用が追加されると精神状態に移行します。
このような所見は、統合失調症では介在神経の機能障害に依る脳の活動の調整に問題があり、そのため環境からの刺激に不必要に反応しすぎ、望ましくない刺激の流入を食い止める能力を欠いていることを示しています。
さらに外部刺激を処理する側頭葉の縮小がこの問題を悪いほうに拍車をかけています。
そのため患者は新しい刺激への適切な対応が困難になります。
なぜ青年期に発病するのか?
青年期というのは遺伝子的要因や新生児の脳損傷などの要なリスクが出生後に次いで表面化する時期です。
発病する時期については多くのヒントがあります。
例えば、正常に脳が発達するとき、脳細胞間の結合(シナプス)が30%から40%失われることが知られています。
この現象は人生早期から青年期にかけて起きます。(HITTENLOCHER1979)
この時期には脳細胞そのものの数が減るわけではなく、細胞間の接続だけが減ります(神経回路の刈り込み)。
幼児期には、速やかな言語獲得の能力を強める必要があり、脳細胞間の高度の接続が求められます。
この時期には、よちよち歩きの子供が一日に十二もの新しい言葉を獲得すします。
しかし、少年期の後期から青年期にかけてシナプスの数が減ることによって、「ワーキングメモリー」(入ってくる情報の読み取りと保持とを同時処理する能力)が強化され、複雑な言語的情報を処理する効率があがります(HOFFMAN&MCGLASHAN1997)。
例えば、我々が誰かが話しているのを聞きながら、他の人のつぶやきやくしゃみのため文章や言葉の一部を聞き逃したりします。
この時我々のワーキングメモリーは、以前に聞いたことのある同様の言葉の貯蔵庫を利用しながら、聞き逃した空白を埋めています。
統合失調症患者にとって、神経回路の刈り込みという、通常は役に立つこの過程が度を過ぎて行われるために、前頭葉や中側頭葉皮質におけるシナプスが少なくなるという事が最近知られています(FEINBERG1983)。
結果、統合失調症患者に於いて、脳のこれら二つの分野の間の連携が乏しくなり、ワーキングメモリの適切な活動が阻害されます(WEINBERGER他1992)。
コンピュウターメモリのこのような無力化は、あいまいな言葉の意味を理解する能力の障害ばかりではなく、幻聴を強くします(HOBBMAN&MCGLARSHAN1997)。
その為子供時代のシナプスの削減はもともとは自然で適用的であるのですが、削減されすぎると、統合失調症の発病につながる可能性があります(FEINBERG1983)。
もしも以上のことが事実ならば、明らかな能力的な不利や生殖力の低下にも関わらず、この病気が人類の中に存在し続ける理由を説明できるかもしれません。
シナプスの削減を支配する遺伝子の働きによって、人は言葉や他の複雑な外部刺激を理解する能力を深めることができます。
脳損傷をもたらす環境面からの侵襲が合併すると、結果として精神疾患が発病する可能性もあります。
このような考え方は推論でしかありませんが、発病のリスクに対して、どのような環境を用意すればよいかという命題を我々に突き付けています。
筆者 心理カウンセラー 浦
memo: repeat00 1-11-102