シゾイド人格障害の特徴
はじめに
静かに一人で過ごす時間は、誰にとっても大切な“休息”かもしれません。しかし、それが単なるリフレッシュではなく、まるで自分の世界に閉じこもってしまうような感覚に結びついているとしたらどうでしょう。周囲との距離をどこか当たり前のように感じ、深い関係を避けてしまう――そんな“孤独”の背景には、実は複雑な心理的メカニズムが隠されているかもしれません。今回お伝えする「シゾイド人格障害」は、いわゆる“孤立”とは少し異なる独自の世界観を持つことが特徴です。もし「誰かの心に壁があるように感じる」「自分はどうしても周りに溶け込めない気がする」という思いがあるなら、ぜひこの解説に目を通してみてください。
愛知県名古屋市の心理カウンセラー 浦光一
【この記事の目的】
この記事では、各種「人格障害(パーソナリティ障害)」の特徴や背景をわかりやすく解説することを目的としています。パーソナリティ障害の基本的な知識を身につけることで、周囲にいる人やご自身の心理状態をより深く理解し、適切なサポートやセルフケアにつなげられるよう支援します。心理学の基礎知識がなくても読み進められるように、専門用語をなるべくかみ砕いて説明しているのもポイントです。
【対象読者】
- 心理学初心者の方
「人格障害(パーソナリティ障害)」という言葉は耳にしたことがあるものの、実際の特徴や対処法について詳しく知らない方を想定しています。 - 本人や家族、身近な方の理解を深めたい方
「もしかして自分や家族が当てはまるのでは?」と感じている方が、必要な知識と視点を得るための入り口として活用いただけます。 - 医療・福祉・教育現場の支援者や専門家を目指す方
カウンセラーやソーシャルワーカー、教員など、人とのかかわりが多い職種を志す方や、すでに携わっている方にとっても、基礎的な理解を深めるための参考資料となります。
専門書を読む前の第一歩として、あるいは臨床や支援現場での具体的な対応策を学ぶ前段階として、多くの方に役立つよう心がけてまとめています。
シゾイド人格障害の概要
シゾイド人格障害(シゾイドパーソナリティ障害、英語名: Schizoid Personality Disorder)は、人付き合いに対して興味や欲求が乏しく、自分の感情を積極的に表現しないなどの特徴がみられるパーソナリティ障害の一つです。ここでは、主な特徴や背景、他のパーソナリティ障害との違い、治療・支援のポイントなどをわかりやすく解説します。
シゾイド人格障害の主な特徴
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社会的関係や親密さへの興味・欲求の低さ
他者との深い関係や集団活動にあまり関心を持たず、孤独を好む傾向があります。多くの人にとって友人関係やパートナーとの親密感は喜びや安心感をもたらすものですが、シゾイド人格障害の方はその必要性を強く感じない場合が多いです。周囲からは「いつも一人でいる」「何を考えているのか分からない」と見られやすい傾向があります。 -
感情表出の乏しさ・平坦さ
喜怒哀楽などの感情を、あまり外には表しません。たとえば、楽しい場面でも笑ったり興奮することが少なく、悲しい出来事に直面しても大きく取り乱すことはあまりありません。周囲からは「クール」「冷淡」と見られることがありますが、本人にとってはそれが自然な感覚という場合もあります。 -
活動や娯楽に対する興味の限られた範囲
趣味や娯楽に熱中するよりも、一人で過ごす時間を好む傾向があります。特定の分野や学問、ゲーム、創作活動などに一人で没頭することはあっても、大勢での集まりやパーティーには積極的には参加しません。社会的刺激が少ない環境のほうが安心できると感じることが多いです。 -
他人からの評価への関心の薄さ
「他人にどう思われるか」「自分の行動や考えをどう評価されるか」という点にあまり敏感ではありません。そのため、職場などで人付き合いがあまりなくとも平気であったり、服装や身だしなみに対してこだわりが少ない方もいます。 -
対立やトラブルが少ない反面、孤立感を抱えることも
衝突を好むわけではなく、積極的に意見をぶつけることも少ないため、周囲との明確なトラブルに発展しない場合が多いです。しかし、周囲からの理解や関わりが得られにくいこともあり、「孤立している」「一人で生きている」といった見え方になりがちです。
背景と原因
シゾイド人格障害の発症には、遺伝や生物学的要因、幼少期の経験が複雑に影響すると考えられています。幼少期に、家族との間で十分な情緒的交流が得られなかったり、過度に干渉されず放任気味に育った場合にも、他人に感情を向ける習慣や方法が身につきにくいという仮説が立てられています。また、神経発達や脳の機能に関する研究では、シゾイド傾向の強い人が他者からの刺激に対して感情的な反応を起こしにくい特徴が示唆されています。
他のパーソナリティ障害との違い
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統合失調型人格障害(シゾタイパル人格障害)
シゾイド人格障害と名前が似ていますが、統合失調型人格障害はより奇異な思考や信念(オカルト的な考えなど)が特徴的です。一方、シゾイド人格障害の方は、奇抜な言動よりも対人関係の回避や興味の乏しさが中心となります。 -
回避性人格障害
他者との関係性に対する避け方が似ている部分もありますが、回避性人格障害の方は「傷つきたくない」という強い不安・恐怖が背景にあります。一方でシゾイド人格障害の方は、親密さへの興味やモチベーション自体が希薄であることが主な違いです。 -
境界性人格障害
感情の起伏が激しく、対人関係も劇的に変化しやすい境界性人格障害とは対照的に、シゾイド人格障害は感情表出が平坦で落ち着きがあり、社会的関わりの少なさが特徴となります。
治療・支援のポイント
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自己理解を促す
「社会的な交流や感情表現が少ないのは、なぜそうなるのか」「本当はどのような思いがあるのか」をゆっくりと整理する作業が役立ちます。シゾイド人格障害の方自身が、自分の特徴やパターンを客観視することで、日常生活や対人関係における選択肢が増えていく可能性があります。 -
心理療法(認知行動療法:CBTなど)の活用
感情の動きや他者との関係性にあまり興味が持てない一方で、本人が困りごとを抱えている場合は、認知行動療法などで具体的なスキルを学ぶことが役立ちます。たとえば、必要最低限のコミュニケーション技術や、相手への気持ちの伝え方などを少しずつ練習していきます。 -
対人スキルの練習と段階的なアプローチ
いきなり大勢の集まりに参加するのではなく、少人数の環境から始めるなど、無理のないペースで社交に慣れていく方法がよく使われます。自分にとって安全だと感じられる範囲を少しずつ広げることで、必要以上のストレスを避けながら経験を積み重ねられます。 -
医療的なサポート
シゾイド人格障害そのものを薬で治療することは困難ですが、もし併存する抑うつや不安が強い場合には、抗うつ薬や抗不安薬などの薬物療法が検討される場合もあります。医療者と協力しながら、どのような支援が最適かを判断することが大切です。 -
周囲の理解と受容
家族や友人、職場の人たちが、シゾイド人格障害の特徴を理解し、「距離を取りたい」「感情表現は控えめだ」という性質を尊重することが重要です。批判や無理な誘いを控え、適度な距離感で接することで、本人にとっても安心できる環境がつくられていきます。
接し方のポイント
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過度な干渉やプライベートへの踏み込みを避ける
シゾイド人格障害の方は、自分の空間や時間を大切にしたいと感じます。あまりに踏み込まれすぎると、さらに拒否感やストレスが高まる可能性があります。 -
無理に感情表現を求めない
感情を表に出すこと自体が苦手、あるいは必要性を感じにくい方が多いため、「もっと素直に感情を表してほしい」と過度に期待するのは逆効果になりやすいです。安心感を育むことで、少しずつ感情的なやり取りが行いやすくなることがあります。 -
少しの変化を尊重し、受け止める
以前よりも少しだけ会話が増えたり、表情が和らいだりといった小さな変化があった場合、それをポジティブに認めることが大切です。無理強いせず、本人のペースを尊重しながらサポートする姿勢が求められます。
まとめ
シゾイド人格障害は、他者との関係性や感情的な関わりに対して興味が希薄で、孤独を好むなどの特徴を持つパーソナリティ障害です。本人が大きな困りごとを感じていない場合もあれば、社会的な状況によっては生活や仕事に支障が出る場合もあります。認知行動療法などの心理的支援を活用し、自分の特徴を理解して少しずつ対人スキルを身につけることで、必要に応じた人間関係を築いていくことが期待できます。周囲の人は、過度な干渉や批判を控え、適切な距離感を保ちながら温かく見守る姿勢を大切にしていくと、少しずつ安心できる環境が整っていくでしょう。
参考文献
パーソナリティ障害や関連分野の理解に役立つ代表的な参考文献および関連サイト(URL)を紹介します。学習や調査の際にご参照ください。
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アメリカ精神医学会 (編) (2014).
DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル (高橋 三郎・大曽根 彰・染矢 俊幸 監訳). 東京: 医学書院.- パーソナリティ障害を含む、各種精神疾患の診断基準が詳しく記載されています。
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厚生労働省 (監修) (2017).
『こころの健康~心の健康問題と対策~』- 日本の精神保健医療や心理支援に関する行政的な情報がまとめられています。
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日本精神神経学会 (監修).
ICD-10およびICD-11 精神および行動の障害の診断ガイドライン(翻訳版)- 世界保健機関(WHO)の国際疾病分類に基づき、精神障害や行動障害の診断や分類が整理されています。
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若林 明雄 (編) (2009).
『パーソナリティ障害の理解と援助』 東京: 医学書院.- 各パーソナリティ障害の理論的背景や治療・援助アプローチが解説されています。
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Beck, A. T., Davis, D. D., & Freeman, A. (eds.) (2015).
Cognitive Therapy of Personality Disorders (2nd ed.). The Guilford Press.- パーソナリティ障害の認知行動療法的アプローチを解説した英語文献です。専門的な内容ですが、各障害の認知的特徴や治療モデルの基礎が学べます。
参考URL
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アメリカ精神医学会 (American Psychiatric Association)
DSM-5(英語版)に関する情報- DSM-5の概要やアップデート情報を入手できます。
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世界保健機関 (WHO)
ICD-11公式サイト(英語)- 国際疾病分類 (ICD-11) に関する詳細を確認できます。
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厚生労働省
こころの健康情報ページ- 日本国内の精神保健関連施策やこころの健康に関する基礎情報を閲覧できます。
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日本精神神経学会
公式サイト- 日本の精神医学やメンタルヘルスの最新情報、学会発表などが掲載されています。
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Mayo Clinic(メイヨークリニック)
Personality disorders (英語)- パーソナリティ障害を含む各種疾患の症状や原因、治療法を分かりやすく解説しています。
上記文献やサイトでは、パーソナリティ障害の概要や分類、治療アプローチに関する基本情報だけでなく、各障害の背景や具体的な事例についても扱われています。より専門的な学習や臨床実践に活かしたい方は、各マニュアルや研究書の原著や関連論文に当たることをおすすめします。
《人格障害をさらに深く学びたい方へ》
心理士/ユング心理学者/心理カウンセラー/統合失調症研究員/夢分析研究員 /
◆日本ユング心理学研究所会員
◆日本カウンセリング学会会員
◆日本応用心理学研究所ゼミナール会員
◆中部カウンセラースクールジャスティス総合教育センター修了
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